お墓の前でピクニック!? 親族がお墓の前に集まり、ごちそうを広げて親睦を深める・・・。沖縄県民にはお馴染みの光景ですが、沖縄旅行中に見かけてびっくりされた経験をお持ちの方も多いのでは。
本州で言うと、お墓は何となく怖いイメージが強いかもしれませんが、沖縄のお墓は先祖崇拝がしっかりと根付いているからか、“神聖な場所”という印象です。
ピクニックの正体は「清明祭(シーミー)」
冒頭の「お墓の前でピクニック」というのは、二十四節気の一つである清明(せいめい)の節内に行う墓前祭「清明祭(シーミー)」と呼ばれる、沖縄の年中行事で重要なものの一つ。
清明祭は旧暦の3月(新暦の4月5日頃)から、現在では5月のゴールデンウィークの頃までの間、週末を中心に行われています。この時期は沖縄本島全域で清明祭が行われるので、道路渋滞も至る所で発生し、“清明祭渋滞”と言われ、この時期の沖縄名物になっています。
「清明祭」の由来とは?
この清明祭ですが、もともとは中国由来の儀礼で、琉球王国の正史として編纂された歴史書「球陽」によると、その起源は1768年とされています。この年に当時の国王が玉陵(たまうどぅん)で祖先の霊を祀るよう定めたとされ、以降、王家に近い貴族、士族層を中心に普及していきました。
王家の清明祭は、庶民に広まったそれとは別で「公家清明祭(くーじぬしーみー)」と言われています。実はこの公家清明祭は現在、伊是名島で行われています。伊是名島は琉球王朝の第二尚氏王統の始祖・尚円王が生まれた島。その尚円王の両親が眠る伊是名城跡の麓の玉陵で毎年厳かに執り行われます。
沖縄のお墓について
少し脱線しますが、沖縄のお墓はその大きさや形が独特。家のように屋根が付いていて、その屋根の部分に“破風”と呼ばれる造形がかたどられた「波風墓(はふうばか)」、亀の甲羅や女性の子宮をかたどったと言われる「亀甲墓(きっこうばか・かめこうばか)」、自然の洞窟などを利用した「掘り抜き墓」、野原に石を積み上げて屋根を茅で葺き住居のようにした「ヌーヤ墓」などが見られます。今でも国際通りのすぐ裏手に亀甲墓が残るなど、本州に多く見られるまとまった墓地ではなく、街中に溶け込むようにお墓があるのも、沖縄の特徴と言えます。
「清明祭」の主役的存在の「重箱料理」とは?
さて、冒頭の“ピクニック”と呼ばれる所以ですが、その墓前で食事をするからということが大きな理由でしょう。
清明祭では餅やウサンミ(魚の天ぷら、昆布、かまぼこ、豚肉、あげ豆腐など)を重箱に詰めて、お菓子、果物、お酒と一緒に墓前に備えて、先祖の供養を祈願します。その正しい重箱は4段を1組として、2箱は餅を5〜7個ずつ縦3列に詰めていきます。残る2箱にウサンミを詰め、品数を奇数にして並べていきます。近年では、エビフライやチキンなど現代の嗜好に合わせた料理が取り入れられたり、スーパーなどで購入できる“オードブル”を持参したり、供え物も時代と共に変化しています。
「清明祭」の厳かな進行手順
清明祭の手順としては、まず、お墓のヒジャイヌカミ(左の神)を拝みます。この時に、重箱料理(餅が入った重箱1つとウサンミの重箱1つ)、お酒、シルカビ(白い紙)、線香12本を供えます。
祈りを込めた後にシルカビを燃やし、お酒をかけます。そして、先ほど供えた重箱の料理の中から2〜3個取り替え、また子や孫が持参した供えものも置き、その上にウチカビ(紙のお金)を置きます。
さらに、仏壇のある家の者が線香12本を供えて祈りをし、その後、ほかの人は線香3本ずつ供えていきます。その後に、またウチカビを燃やしてお酒をかける行為を繰り返していきます。
「清明祭」で用意するあれこれ
平たい形状から「ヒラウコー」と言われる沖縄の線香、線香などの下に敷く「シルカビ」また、清明祭や旧盆、お彼岸などの年中行事に使われる“グソーヌジン(後生の銭)”、つまり、祖先があの世で使うお金とされ、中国に起源を持つ供え物の一つ「ウチカビ」。これらは年間を通じてスーパーマーケット等で売られていて、拝みの風習が残る沖縄ならではの光景として文化として根付いています。
このウチカビは、法事の際に墓前や仏壇前で燃やします。それが燃え尽きる寸前で杯に注いでおいたお酒を振り掛けて火を消すのですが、この時に一部が燃え残ると“全額の送金ができない”とされるため、あの世で祖先がお金に困ってしまいます。そのため、お酒を掛けるタイミングが大事だとされています。
「清明祭」はおきなわ新喜劇にも!
近年では、この清明祭の文化が本州にも広く知られるようになり、冒頭の「お墓の前でピクニック」などと言われるようになりました。その象徴だったのが、2014年に行われた、お笑いコンビ・ガレッジセールのゴリがプロデュースする吉本新喜劇の沖縄版・おきなわ新喜劇の舞台「Do you“シーミー”?」。一族が墓地に集まって先祖に今の自分たちの姿を見せる祭事「シーミー(清明祭)」をモチーフに、ドタバタコメディーに仕立て、笑いと共に沖縄の文化を全国に発信し、評判を呼んだのも、こういった背景があったからのことでしょう。
先祖崇拝の沖縄ならではの文化なので、本州の人にはなかなか清明祭に参加する機会はないかもしれませんが、スーパーで売られている「ウチカビ」などを見掛けた際は、そんな沖縄の拝みの文化があることを思い出してみてください。
参考文献:沖縄大百科事典(沖縄タイムス社)、沖縄資料集成(green-life)、知っておきたい 沖縄の法事と供養 仏壇ごとのしきたいと方法(高橋恵子著、ボーダーインク)、御願の道具と供えもの事典(稲福政斉著、ボーダーインク)
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