国内最大級とされるサンゴ礁の海域・石西礁湖(せきせいしょうこ)や、枝状・テーブル状など多様なサンゴが高密度に生息する慶良間諸島など世界的な美しさを誇る沖縄各地の海に今、ある変化が起こり始めています。
それは、地球温暖化による海水温の上昇や水質汚染などの影響で、サンゴが弱り、真っ白な姿になってしまう「白化(はっか)」です。沖縄近海でも数十年前から発生していましたが、今年8月、先島諸島を中心に大規模な白化現象が確認されました。
前編では白化のメカニズムや要因について紹介しましたが、後編では、サンゴを守るために私たちができること、サンゴの役割や人々に与えてくれている恩恵、沖縄の海のすばらしさについて、沖縄・石垣市の国際サンゴ礁研究・モニタリングセンター内にある、石垣自然保護官事務所・自然保護官補佐の江川博子さんに教えていただきました。オリオンビールが活動を応援する「3935プロジェクト」をはじめ、沖縄県内でサンゴの保護や自然保護に取り組む団体についてもご紹介します。
世界のサンゴ種の半数以上が生息する沖縄の海
複雑な姿をしたサンゴの骨格が海の生き物の隠れ家になり、ポリプや粘液が生き物の餌になることから、「海の森」とも呼ばれるサンゴ礁。生物多様性を育む重要な役割を担い、その生態系は熱帯雨林にも匹敵するほど豊かです。
世界には約700~800種のサンゴが生息するといわれていますが、沖縄の海ではそのうち400種以上が確認されています。これは、一カ所で見られる数としては何と世界最多! 一般的にサンゴ礁は赤道近くの温かい海に生息するため、世界的に見るとその北限に位置し、赤道からも離れている日本は適さないように見えますが、近海を流れる黒潮(暖流)のお陰で、多くの種類のサンゴが生息しています。
さらに、地球上で最も多くの海洋生物が生息するとされる東南アジアの「コーラルトライアングル」という地域からサンゴの幼生が黒潮に乗って日本まで運ばれているともいわれ、これも沖縄の海にサンゴの種類が多い理由の一つとされています。
私たちが受けているサンゴの恩恵とは?
さらに、サンゴは海の中の生き物にはもちろん、人々や自然に対してもたくさんの恩恵を与えてくれています。沖縄では昔から硬いサンゴの骨やそれらが砕けてできた砂を建材資材に用いたり、サンゴでできた石灰岩を石垣・柱・壁・礎石などに使っていました。畑を耕したり脱穀するなど農業にも役立てていました。
また、積み重なって大きな地形を作り上げていくサンゴは、島をぐるりと取り囲むように成長してサンゴ礁となるため、天然の防波堤の役割を果たします。
台風の際には、島に向かってくる大きな波を打ち砕いて弱める効果があり、2004年に起きたインド洋津波の際は、サンゴ礁の状態が良好な地域は被害が小さかったといわれています。
ほかにも魚や多くの海の生き物を育んで生態系の土台となることで、漁業や私たちの食に至るまで、さまざまなシーンで支えてくれています。スノーケリングやダイビングで海の中の美しい景色が楽しめ、観光業が盛んになることも、私たちがサンゴから受けている恩恵の一つです。
サンゴの減少で起こること、想像してみてください
これだけたくさんの役割を持ち、人々に恩恵を与えるサンゴが減ってしまうことを想像してみましょう。サンゴが死んでしまうとそこをすみかにする小さな魚などが減少、すると小さな魚などを餌にする大型の魚も姿を消し、海の中の生態系が崩れてしまいます。
やがて漁業資源や観光資源が減少し、人々の食生活、雇用などに影響が出てきます。さらに、自然の防波堤がなくなると、災害時の防災・減災機能が低下。サンゴ内の褐虫藻が光合成を行えないことから二酸化炭素の吸収と酸素の供給も減り、地球温暖化の進行にも影響を及ぼす可能性も考えられます。
サンゴと地球の未来を守るためにできることを考えよう
2022年9月の時点で、八重山諸島の石西礁湖のサンゴは90%が白化していることが調査の結果で分かりました。また、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は地球温暖化がこのままのペースで続いて平均気温が1.5℃上昇すると、2030~2050年にはサンゴの70~90%が死滅するとの報告書を発表しています。
では、サンゴの白化を防ぐには、美しい海を守るにはどうしたらいいのでしょうか?
まずは海の富栄養化、地球温暖化、海洋酸性、海洋ゴミの4つポイントから「サンゴのためにできること」を考えてみましょう。今日から始められることや日常の中で気軽にできること、下記以外にもたくさんありますので、ぜひ自分なりに考えて挑戦してみてください。
【海の富栄養化】…生活・工場・農業・畜産排水の海への流れ込みを防ごう
「食器類の汚れは拭き取ってから洗う」「洗剤を必要以上に使わない」「風呂の残り湯をトイレや洗濯に使う」など水質汚染を気に掛ける。
【地球温暖化】…海水温の上昇によるサンゴの白化、巨大台風によるサンゴの破壊を防ごう
「こまめなスイッチオフ」「電気製品のプラグをコンセントから抜く」「冷房の設定温度を今よりも1℃高く」「暖房の設定温度を今よりも1℃低く」など節電やCO₂の削減を心掛ける。
【海洋酸性化】…二酸化炭素が海溶け込み酸性になり、サンゴの骨格形成を阻害することを防ごう
「徒歩、自転車、公共交通機関など自動車以外の移動手段の選択」「冷蔵庫へ食品を詰め過ぎない」などCO₂の削減を心掛ける。
【海洋ゴミ】…海の生態系に影響を及ぼすマイクロプラスチックを減らそう
「物を大切にする意識を持つ」「長く使えるか購入時に考える」「マイボトルやマイバッグを持ち歩き、ペットボトルやプラスチックゴミの削減」を心掛ける。
サンゴの保全活動のための取り組みを応援しよう!
沖縄県内にはサンゴの保全に努めるチームや団体がたくさんあります。サンゴの植え付けや、自然観察会、出前授業など、多彩な取り組みがありますので、興味がある人は活動を覗いてみたり、ボランティアや寄付などで応援することから始めてみるのもおすすめです。
【3935プロジェクト】
タレント、女優として芸能活動をしている田中律子さんが理事を務める「NPO法人アクアプラネット」と「NPO法人観光事業活動研究会」「NPO法人体験活動研究会」が立ち上げたサンゴ再生プロジェクト。2006年から年2回、沖縄本島の北谷町や石垣島でサンゴ移植活動を行っていて、2022年現在で約6,000本のサンゴを養殖しました。
オリオンビールでは、公式通販でチャリティーグッズを販売。収益の一部を「3935プロジェクト」に寄付し、沖縄のサンゴや海の環境を守る活動に役立てています。
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サンゴの保護を進める「3935プロジェクト」|“見て楽しめるサンゴ畑”を目指して
【チーム美らサンゴ】
沖縄県内外の企業が集まり、「自分たちの手でサンゴを植え付け、かつての水中景観を取り戻したい!」と2004年に結成。サンゴの養殖を行う恩納村漁業協同組合や恩納村など行政の後援を得ながら、サンゴ苗の植え付け、沖縄県外での啓発イベントを開催し、サンゴ保全に取り組んでいます。
【国際サンゴ礁研究・モニタリングセンター】
石垣市にある環境省の施設で、サンゴの現状を伝える普及啓発活動、サンゴの現状を調べるモニタリング調査、サンゴの回復を助けるサンゴ群集修復事業などを行っています。
【八重山(やいま)うみしまフレンドシップ】
八重山地域のサンゴ礁を育む豊かな海と島を守る人の輪を広げるため、2022年4月から活動を開始。海やサンゴ礁を守る行動や海の環境への負担を少なくする取り組みをしていたり、これから始めようとしていたりする事業者、団体、個人を広く募集しています。
【コラコラ Coral Collabo】
2019年5月に石垣島でローカル認証を作るために立ち上がった団体。「サンゴに優しい取り組みを行う事業者の製品が消費者に選ばれる経済環境を作りたい」と、現在、農業や飲食のガイドラインを作成しています。
サンゴの白化にはいくつかのストレス(要因)が挙げられ、残念ながら私たちの行動が影響していることも事実です。大規模白化と聞くと、サンゴを再生させることがとても難しく感じてしまいますが、まずは現状を知り、何ができるかを考えることからはじめましょう。
一人一人が普段の生活を見直し、環境に負荷を掛けることが少ない方法を選択することで、サンゴの白化を食い止められるかもしれません。
※本文中の「サンゴ」とは「サンゴ礁を作る造礁サンゴ」を指しています
参考サイト:環境省 国際サンゴ礁研究・モニタリングセンター、石西礁湖ポータルウェブサイト
オリオン公式通販のチャリティ商品
沖縄の環境保全などへの寄付付き商品。オリオンビール公式通販では、さまざまなクリエイターや企業とともに沖縄のサンゴ礁保全の活動などへのチャリティ商品づくりを進めています。