ラフテー、ミミガー、ソーキそばなど、沖縄の伝統料理や家庭料理に欠かせない食材の一つ「豚肉」。沖縄では「鳴き声とひづめ以外は食べる」「ブタに始まり、ブタに終わる」ともいわれ、肉の他に、顔や耳の皮、足、内臓まで無駄なく使う習慣があります。
沖縄ではブタの調理法や部位の呼び方なども特徴的なので、旅行で沖縄に訪れた際には居酒屋や食堂に並ぶ見慣れないメニューの数々に驚く方も多いようです。今回は、沖縄県民のエネルギー源にもなっている「豚肉」について、その魅力や歴史などをオリジナルレシピと共に紹介します。
ぜひご家庭でも、オリオンビールと一緒に沖縄風の豚料理にチャレンジしてみてくださいね。
琉球王朝時代から食されていた「豚肉」
沖縄にブタが伝わったのは14世紀頃、中国からの渡来人によって輸入されたそうです。しかし、大量の餌を必要とするブタはあまり普及せず、それまではウシやウマの家畜が主流に。やがてウシやウマは中国への貢ぎ物や士族の乗り物、農耕用としての価値が高まり、琉球王府が家畜禁止の政策を打ち出します。
また、中国からの客人・冊封使(さっぽうし)の食料として1日に数十頭のブタを献上しており、王府はブタの飼育を奨励。その後、中国からイモの栽培が導入され、捨てられる葉や茎を飼料にできたことから、ブタの飼育が盛んになったとされています。
他にも、沖縄は本土ほど仏教が民衆に浸透せず、肉食禁忌の影響を受けなかったため肉食の定着が早かったとも考えられ、こうした歴史背景が沖縄の豚肉文化に、大きく関係していたのかもしれません。(諸説あり)
沖縄の豚肉料理は先人たちの知恵と工夫のたまもの
ブタの飼育が盛んになってからも豚肉はまだまだ高級品で、第2次世界大戦後頃まで、庶民が豚肉を口にできるのは盆や正月などの行事ごとに限られていたそうです。そんな中、人々は特別なときに、ブタ1頭を親戚や身近な人と分け合い、限られた量を効率良く調理し、栄養をしっかり摂取できる豚肉料理を編み出していきます。
また、沖縄では「類を持って類を補う」という中国の漢方の考え方に基づいて、自分の体の悪い部分と同じブタの部位を「命の薬(ぬちぐすい)」として食する習慣があります。そこに昔から、物資を大切にする沖縄の人々の心も相まって、今なお人々に愛されているたくさんの豚肉料理が生まれたといわれています。
各部位の沖縄名とレシピを紹介
宮廷料理として食されていたものから、日常的な家庭料理まで沖縄の豚肉料理は実にさまざまなレパートリーがあります。ここでは、意外と知られていない沖縄の豚肉の部位の呼び方と共に、オリジナルレシピを紹介します。家庭で手軽に作れるメニューもありますので、ぜひチャレンジしてみてください!
ソーキ(あばら、スペアリブ)
「ソーキ」とは骨付きのあばら肉のこと。沖縄では骨に肉を残してカットするのが特長です。そばや汁物の具材としてもよく使われ、長時間煮込むと軟骨まで柔らかくなり、骨ごと食べることができます。
代表料理は「ソーキ汁」「軟骨ソーキ煮」「ソーキそば」など(「ソーキそば」とは骨付きのあばら肉がのったそばで「沖縄そば」は基本的に三枚肉がのったそばを指します)
→「ソーキ汁」のオリジナルレシピはこちら
ハラガー(バラ、三枚肉)
「三枚肉」とも呼ばれ、煮つけ、炒め物、汁物などあらゆるジャンルの沖縄料理に使われる「ハラガー」はとてもポピュラーな部位。脂身と赤身が層になったバラ肉のことで、沖縄では皮付きのまま調理することがほとんどです。
皮付き肉と泡盛を使っていることがラフテーと角煮の大きな違いといわれています。泡盛を入れて煮込むとさっぱりとした味わいに仕上がるとか。代表料理は「ラフテー」、豚肉の塩漬け「スーチカ―」など
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ボージン(ロース、肩ロース、背ロース)
脂身が少なくきめの細かい肉質でヒレ肉と並ぶ上質な部位「ロース」、程よく脂身があり、うま味が凝縮されさまざまな料理に使える万能な部位「肩ロース、背ロース」など、沖縄では「ロース肉」全般を「ボージン」と呼んでいます。
とんかつ、しゃぶしゃぶ、しょうが焼きなどにも最適で、肉好きにはたまらない「ボージン」。代表料理は豚肉にごまだれをまぶして蒸した琉球宮廷料理の一品「ミヌダル」などがあります。
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チム(レバー、肝臓)
ビタミンや鉄分が豊富なレバーは、沖縄では滋養強壮の効果があるとされ「チムシンジ」という汁物が、スタミナ食として県民に愛されています。「チムシンジ」は豚レバーの煎じ汁のことで、薬が手に入りにくい時代から、風邪、貧血、夏バテなど体調のすぐれないときに、「クスイムン(薬)」として食されています。
→「チムシンジ」のオリジナルレシピはこちら
テビチ・ティビチ・チマグ(豚足)
ビタミンやコラーゲンがたっぷりで美容にもおすすめの豚足。煮込み料理に使われることが多く、ひづめに近い足の甲の部分はチマグと呼びます。
しっかりとした出汁が出るので、煮込み料理やそばの具材として使われ、沖縄のおでんには欠かせない部位です。代表料理は「テビチの煮つけ」「テビチそば」「沖縄おでん」など。
→大きなテビチが入った「沖縄おでん」の記事はこちら
ビービー(小腸)・ウフワタ(大腸)
小腸と大腸それぞれの脂肪を丁寧に除去し、茹でた物が市販されています(精肉店や家庭によっては洗濯機で脂肪を洗い落とすことも!)。小腸・大腸・胃などの「モツ」を合わせたものを沖縄では「中身」と呼び、沖縄の祝い事で食べる「中身汁」には欠かせません。「中身汁」は上品でやさしい味わいの澄まし汁です。
→「中身汁」のオリジナルレシピはこちら
チラガー(顔の皮)
顔の皮のことで、沖縄県の方言で、顔を「チラ」、皮を「ガー」と呼ぶことから合わせて「チラガー」。コラーゲン豊富でヘルシーな部位。丸ごと燻製されたものやスライスした加工品が販売されています。歯応えがよく、豚肉の中でも珍味とされる部分でおつまみにぴったりです。
ミミガー(耳)
ブタの耳の皮を指しますが、酢みそやピーナッツバターとのあえ物も「ミミガー」の名称で、沖縄料理店などで提供されています。クラゲのようなコリコリとした食感が特長で、酢みそやピーナッツバターとのあえ物は食べやすく沖縄居酒屋でも人気のメニュー。茹でてスライスされたものやジャーキーが市販されており、おつまみや料理の前菜にもおすすめです。
参考文献:「沖縄肉読本」(編集工房東洋企画)、沖縄大百科事典(沖縄タイムス社)、「沖縄の食材・料理」(仲本玲子/小畑耕行共著)、「沖縄の食文化」(外間守善)、「沖縄食材図鑑」(楽園計画)、「暮らしの中の栄養学」(尚 弘子著)
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