沖縄県の本島南部と八重山、宮古諸島などの多くは琉球石灰岩をベースにした地層で、その昔、サンゴ礁のはたらきで形成されたといわれています。
観光で沖縄を訪れた際に、竹富島などに白い砂の道があったり、沖縄の海がエメラルドグリーンなどさまざまな青色に見えたりするのも、全て豊かなサンゴ礁があるおかげなのです。
ただ、近年は天候や開発工事等の影響でサンゴ礁にとってはよくない環境になりつつあります。
「美しい沖縄の海を絶やさない!」「子供たちにきれいな沖縄の海を残す」…そんな思いで、ビーチクリーン活動やサンゴの植え付け体験、サンゴ礁保護活動のための寄付など、さまざまな活動が行われています。
【参考記事】世界に誇る島の宝物 美しい沖縄のサンゴについて知ろう!
そんなサンゴ保護活動の団体の一つを立ち上げたのが、タレント、女優として芸能活動をしている田中律子さん。現在は、沖縄でサンゴを養殖して海に移植する活動「3935プロジェクト」を行う「NPO法人アクアプラネット」を立ち上げ、2009年からは同法人の理事長を務めながら、沖縄でのサンゴ再生プロジェクトに励んでいます。
沖縄の美しい景観を、まさしく“持続可能”にする活動をしている田中さんに、アクアプラネットの活動やサンゴ礁について、そして、今後の目標などについて聞きました。
これまでに約6,000本のサンゴを養殖
NPO法人アクアプラネットは、沖縄本島中部の北谷町(ちゃたんちょう)で2006年から年2回、サンゴ移植活動を継続して行っています。また、沖縄本島だけでなく、石垣島では八重山漁業協同組合との協力事業として「3935(サンキューサンゴ)プロジェクト(石垣サンゴ養殖チーム名)」として石垣島のダイビングショップなども協力事業者に加えてサンゴ養殖事業を手掛けています。
「アクアプラネットは2020年時点で、約5,000本のサンゴ苗を養殖しました。その後、一般の方や企業の方々のご支援のおかげで、2022年現在、約6,000本、サンゴ畑も3カ所に増えています」と継続的な活動で着実に成果を残しています。
サンゴの種類は多種多様
ひと口に「サンゴ」といいますが、実は種類が豊富。大きくは、硬い骨格を持つ「ハードコーラル」と柔らかい石灰質の骨格を持つ「ソフトコーラル」に分けられます。
「ハードコーラル」はミドリイシのほか、ヒユサンゴなどがこちらに分類されます。一方、「ソフトコーラル」は細かい石灰質の骨格で軟らかいサンゴのこと。一般にはやわらかい種類が多く、ウミキノコなどが入ります。
「北谷では移植するので生育率の良いミドリイシ系のサンゴを育てています。一方、石垣は養殖なので多様な種類を育てています。2016年に八重山のサンゴが大白化し、その際に生き残ったサンゴや比較的高水温に強い苗を中心に30種類ほどのサンゴを育てています」と、それぞれの活動に合わせたサンゴを育成しています。
養殖と調査を同時進行することで生育率も向上!
北谷では、港から船で10分程度のところにある幾つかの根がある場所で移植を行い、最大水深25mほどのところにスポットがあります。「移植は水深5m付近の比較的平らな場所で行っています。毎年、移植の方法を研究しながら活動を続けてきた結果、移植したサンゴの生育率も年々向上しています」と毎年改善しながら環境を整えている状況。
一方、石垣島は水深の違う3カ所で養殖。「最初は、平均水深が3~5m程度の比較的浅い場所とその場所から南沖の水深6~8m位の場所、もう一つは、港から西側に40分ほど船で行った水深8~10m位の場所で養殖を行っていました。それぞれの場所での環境や発育を研究しながら、現在では、それぞれの環境下での育ちやすい種類が分かってきたので、場所に適したサンゴの養殖を始めています」とこちらでも研究や調査と一緒に活動を進めています。
サンゴはデリケートなことでも知られていますが、田中さんたちも細心の注意で活動を実施。「サンゴは海から陸に上げるだけでもストレスが掛かるといわれています。そのため、作業はできるだけ海の中で行い、陸に上げる時間を最小限にすることや、養殖用の部材にサンゴを取り付ける際にも、力を入れ過ぎないようにするなど慎重に作業を行なっています」。
自然の中で遊ばせてもらったら、自然に感謝をして恩返しを
サンゴの最大の敵は、海水温の上昇。台風の襲来が多い沖縄ですが、台風があまり来ないと海水が掻き回されないので、そうした気象状況によってもサンゴに大きなダメージを与える要因になってしまいます。
「地球規模の環境変化による海水温の上昇が、サンゴが直面する一番の課題です。この水温上昇が白化してしまう最大の原因。また、陸上の乱開発によって赤土が海に流入して海水が汚れるなどもその理由の一つです。コロナ禍によるサンゴへの影響については今のところ分かってはいませんが、コロナ禍で人気が出ているアウトドアでのキャンプや釣りで出たゴミをそのままにして帰る人がいるのが残念です。それが結果として海を汚すことになりますので、遊んだら、しっかりきれいにして帰ってほしいですね。私も『(自然の中で)遊ばせてもらったら、そこの自然に感謝して恩返しする』を遊ぶルールにしています」と、田中さん流のアウトドアのルーティンも教えてもらいました。
アクアプラネットでは、思い立ったら気軽にサンゴの保護活動ができるプログラムも用意しています。「(委託方法や苗づくり体験などによって)ご自身のサンゴ苗を作っていただき、そのサンゴ苗のメンテナンスを私たちが行い、産卵するまでに育て上げる活動を行っています。ホームページでサンゴ苗の状況を随時確認できるように継続的にメンテナンスを行っています(個人のサンゴ苗全ての生育状態を確認することはできません)。この応援プログラムによって自分たちの手で作った苗が育ち、新しい命を作り出すことを期待していただくことによって、夢が広がると同時にサンゴの保護活動に参加しているということにつながるので、海の自然に目を向けていただきたいと思っています」と呼び掛けました。
サンゴの育成を通して私たちの活動を伝えていきたい
アクアプラネット以外にも、田中さんは美(ちゅ)ら島沖縄大使、久米島観光大使、石垣島さんご大使、座間味村観光大使など、サンゴや沖縄のために幅広く広報活動を行っています。そんな沖縄での活動を振り返っていただきました。
「サンゴの保護活動をしていて悲しかったのは、2016年に起きてしまった、八重山の海でのサンゴの大規模な白化。私たちがサンゴの養殖活動を始めたばかりの頃でしたが、この時は養殖場のサンゴの約80%が高水温の影響で白化してしまいました。一方でうれしかったこともたくさんあります! 中でも、地元の子供たちと船で大きくなったサンゴを見学に行った際、すごく感動してもらえたことや、植え付けた際の写真やハガキを送ったことで感謝の言葉をたくさんいただけたことなどが特に思い出深く、それらのうれしい出来事が、私たちの活動の原動力につながっています。今も、サンゴの応援プログラムに参加してくれた方に、メールで名前付きのサンゴの写真をお返ししていますが、その写真をたくさんの方がSNSなどで発信・拡散してくれています。見るたびにうれしくなります」と笑顔で感謝の言葉を語りました。
サンゴの保護活動は田中さんのような実施主体の団体だけでは厳しいのが現状です。「私たちの活動は、自然保護活動をサンゴの育成を通して、伝えていくことにあります。今のサンゴの現状など、たくさんの方に伝えていきたいです。知ってもらい、理解してもらい、行動してもらえるよう、これからも活動していきます!」と力強いコメントも飛び出しました。
“見て楽しめるサンゴ畑”を作りたい!
直近の活動を聞くと、「昨年、アクアプラネットの発足15周年の記念イベントを行う予定でしたが、コロナ禍の影響で中止になってしまいました。今年は、規模を縮小した形で、3月5日(サンゴの日)に石垣島で、親子サンゴ苗づくり体験と私の講演会を行い、作った苗を3935プロジェクト公認ダイバーが畑に持っていくイベントを行う予定です。今後も啓発活動としてのイベントは、少なくとも年間1回は行っていく予定です。3月5日にスタートするクラウドファンディングもその一環です」とのこと。
※アクアプラネットによるクラウドファンディングのプロジェクト「100年後の子供たちに、この海を残したい!」はこちら
最後に、これからの目標を聞きました。「アクアプラネットでのサンゴ保護活動を中心に、海の環境を守っていく活動を続けていきます。大きな目標の一つに、継続的なサンゴ畑の拡大とメンテナンスによって、一般の方々にも“見て楽しめるサンゴ畑”ができることを目指していきます。自然界のサンゴ畑と、養殖のサンゴ畑、両方の見学ができるようなグラスボートを使ってツアーなども検討しています」とワクワクする構想も教えていただきました。
オリオンビールでは、公式通販で販売する対象のオリジナルグッズの収益の一部を3935プロジェクトに寄付し、沖縄の海を守っていく活動に役立ててもらう計画です。「このプロジェクトが沖縄のビールを代表するメーカーさんであるオリオンビールさんのお目に留まったことに感激しています! オリオンビールの商品に『サンゴ畑が印刷されたらうれしいねー』とスタッフと話しています。私もオリオンビールのCMに出るのが夢です!!」と笑顔を見せてくれました。